一度想像してみていただきたいのです。

毎日、自分で好きな服を選び、食べたいものを食べ、好きなときに好きなところへ外出でき、夜は毎日お風呂へ入り...ということができる、健康で元気な人の美容と

トイレや洗面所へ行くのがやっと。誰かの手を借りなければ、転んでしまわないか不安。

という方の美容は同じか。

骨格が、似合わせが、質感が・・・??

それよりも先に、頭を綺麗に洗う。

身体の状況に合わせて普段のライフスタイルからどの位の長さが適切かを探す。

どうしたら自尊心を高められるか、という事が優先の場合もあります。

だから単純に「楽だからショートカット!」とはならないのです。

若いときはずっとロングでしっかり結い上げる、ショートにしたことがない。

そんなお客様が中途半端にショートにしても、顔周りで毛先が動くのにストレスを感じてしまいます。

その様な場合は、耳に充分かけられる長さを残しスッキリ耳にかけてしまう方が楽だったりします。

その方のライフスタイル、お身体の使い方、普段の体勢などからベストなヘアスタイルを探すお手伝いをなにより一番大切にしています。

美容を楽しむことは、QOL(Quality of Life=生活の質)を維持向上できる効果があることが、研究によって明らかになっています。

整容(身なりを整える)には見た目をきれいにするだけでなく、気持ちを明るくするなどの精神的にも良い影響を与える効果があります。

この効果を活用したのが支援美容・福祉美容というものです。

お客様の心身の状態がどのように変化しても美容師である私にできることは「髪を切ること・洗うこと」それしかありません。

だけど、たったそれだけのことが

・大切な家族の励みになったり

・自身の自尊心の向上に繋がったり

・心身の状態の回復に繋がったり

・奇跡のような出来事を起こしたり

するのです。だから私は「髪を切る・洗う」こと。その時間をお客様と心から向き合う大切な時間と思って過ごしています。

私は「美容師」だから。お客様の気持ちの理解者でいたいと思っています。

美容の力 美容師にできることとは。

―「美容療法」という言葉を使いたい理由 ―

美容の力は奇跡とも思えることを時に起こしてくれました。

・施設の中で暮らしている方にヘアメイクをしたら「外出をしたい」という希望が増えた

・フットケアで丁寧に角質を取り除いたあとは「足の裏に地面を感じる」と自ら積極的に歩き出した

・一年以上洗髪ができなかった方の洗髪後、お客様から「自分がどうありたい」という言葉を話してくれた

・認知症の症状がある方に、簡単なヘアメイクをしたらその後4時間くらい記憶がよみがえって以前のような会話をご家族ができた

その他にもネイルケアサービスでマニキュアを塗ると、自分の指を嬉しそうに何度も見たり、落ちるまで大切にする方も多く

美容って本当に素晴らしい、お金に換えられない大きな意義があるのだと感じています。


「美容療法」という言葉は、私が考えた言葉です。

一般的な「支援美容」や「福祉美容」という言葉では、私の想いの部分でどこかアンマッチ。しっくりとこない感じがしています。

福祉・支援というのはもちろん含むのですが、もっと老若男女や障害の有無など関係なく、人と人としての関りの中で流動的にお客様にとっての「心地いい」を探し、接しているというイメージです。

さらに美容師である私が行う行為がお客様へ与える影響の大きさは、もはや「治療」のようだと感じる事があります。美容にはそれくらい大きな力があります。

その「美容の力」を使う美容師という仕事に誇りと責任を持ちたい。その覚悟も含めてこの「美容療法」という言葉を使っています。